在席率の高い職種にノンテリトリアルオフィス

デザイナーや研究職、或いは他の専門職でデスクに向かう時間が長く、在席率の高いこれらの職種にノンテリトリアル型の空間は何かメリットをもたらせるか、というお話。

1980年代後半、清水建設技術研究所でフリーアドレスという概念が国内で生まれ、考え方自体は画期的でその上大幅なスペースコストの削減も期待できるので一時期もてはやされていたようだ。
しかしそれは同時にワーカーの「領域」を崩壊させる事も意味し、自分専用の机に落ち着く「個」の空間を作りたい人にとっては(殆どの人がそう思っていると感じている)抵抗したくなるのも事実である。

在席率が高い職種というのは、研究職、設計・デザイン、プログラマ、CGデザイナー等がそれに該当する。
ミーティングなどは除いて、基本的に誰にも邪魔されずに集中してデスクに向かう時間が多い人達。
その職種に対して一般的に不利といわれるノンテリトリアル型を導入する事で何かメリットは無いだろうか。

千葉工大教授嶋村仁志氏が10年以上前になってしまうが、上記の件に触れた研究を清水建設技術研究所で行われていた。

研究執務スペースのフリーアドレス化に関する研究(その1)
ユーザーの満足度評価によるフリーアドレス・オフィスの効果分析
学術講演梗概集、1996年

研究執務スペースのフリーアドレス化に関する研究(その2)
コミュニケーションの量と場所の変化
学術講演梗概集、1996年

こちらの論文二つはCiNiiから梗概が公開されている。詳細はリンクを参照して頂きたい。

論文を書いたことが無い学部生レベルの分析で申し訳ないが、要約するとあるR&D施設の研究執務スペースを対象にフリーアドレスを適用し、その結果をアンケート形式でユーザーの満足度評価として報告したものである。研究目的が多少ボヤけてしまっているが、研究職にフリーアドレスを適用した話はなかなか聞かないのでその結果は実に興味深い。
フリーアドレス化のスペース有効活用以外のメリットとして挙げられるデスク周り以外での他社とのコミュニケーション機会の増加は、良い悪いという話では無いものだ。
毎日自分の席位置が変わることで、今まで話さなかったスタッフと会話し、その人の魅力が発見するかもわからないし、集中したい時に席位置によってたくさん話しかけられ、上手くいかない場合があるからである。
その点については論文その2の考察部分に詳しく書かれている。
このR&D施設をフリーアドレス化させた事で、全体的に見れば不満が増す結果となった。

私が思うに、上記論文の結果は日本人ならではだとも思った。
フリーアドレス化させてかえって煩わしさが増えるという事は、個々の性格に依存している分が大きい様に感じる。
ある欧米のオフィスでは、椅子の裏にポストイットメモで「忙しいからいま話しかけないでね」という一言を貼り付けている姿を写真で見た事がある。
多くの日本人はその行為はなんだか無礼だと感じて、「話しかけるな」の一言が言えないストレスが上記の様な結果をもたらしているのだと感じるのだ。

したがって、デザインの余地がある部分は、ある一定時間「話しかけないでね」という感情を外へ発信する仕組みである。
重要なのは、それを当事者が意図的に伝えてはならないという点である。
話しかけて欲しくない時に先のポストイットメモを貼ったり、机の上にそういったものを置くと、「話しかけないでね」を、自ら発信した事による罪悪感的ストレスを感じてしまう。

望ましいのは、話しかけてほしくないことを自分が感じる以前に、その感情を自分以外の何かが感じ取り、自然に話し掛けれない状態にもっていくことである。
なんと神経質なデザイン課題だろう。

さて、この課題に対し1つの解決策になりそうなプロダクトデザインがある。
それは貧乏ゆすりからヒントを得たというか利用したYUREX
開発したのは工業デザイナー兼タレント兼パフォーマーの明和電機と、以前日記を書いた事があるお気に入り企業、株式会社カヤックである。

貧乏ゆすりをどうこのプロダクトに活かしたかは明和電機の土佐氏によるBounding Body from Unconciousness概論に詳しい。通常バッドマナーの代表格とされる貧乏ゆすりを集中している状態だとして、奨励(?)するカヤックらしい企業文化と、それを科学的にどうかは別として「正のBBU」(BBU概論5章より)という、脳が活性中の振動パターンを定義して、クリエイティブ創出の手助けにしようとデザインした明和電機の共同作品である。

正の貧乏ゆすりが定義できるとすれば、きっとイライラしてる時の貧乏ゆすりもプログラム化出来るだろう。
そうすればイライラしている本人が話しかけないで欲しいを感じる前にYUREXが感知して、何かしら表にサインを出す事が出来れば、上記デザイン課題の解決策になりうるだろう。

クリエイティブワークがメインの会社の経営者にとっては、フリーアドレス化でスペースコストを大幅に削減し、ワーカーは固定席で無くともYUREXにより集中し、尚且つ「話かけるな」オーラを本人が言わずにYUREXが変わりに伝えてくれる。
そしてノンテリトリアルオフィスへの有用なプロダクトとしてYUREXの販売者にも新たな売上げが期待でき、これは正しく私が好きな言葉「WIN-WIN-WIN」の関係が成立している。
ただし、貧乏ゆすりを認める会社に限る。

オフィスソリューションのプロを目指す者として、家具やレイアウト、組織運営など一般的に解決に結びつきそうな分野だけに拘らず、柔軟な発想で広いフィールドで多角的に提案できるようにならねばならない。

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